2025年6月の法改正で義務化へ。工場が今から備えるべき熱中症対策を解説します。
2025年（令和7年）6月、厚生労働省が定める労働安全衛生規則の一部が改正され、「熱中症対策」が正式に事業者の義務となります。これまでは努力義務とされていた暑熱環境に対する管理措置が、制度上明確に義務化されることで、企業には具体的かつ継続的な対策の実施が求められるようになります。
特に対象となるのは、高温多湿な作業環境下で業務を行う工場、倉庫、建設現場などで、WBGT（湿球黒球温度）値が28℃を超えるような環境が想定される現場では、適切な対策を怠ると法令違反となる可能性があります。
改正ポイントの一例としては以下の通りです。
主な改正ポイント
- WBGTの継続的な把握と記録の義務
- 高温環境下での作業に対する作業中断や休憩の指示
- 水分・塩分の確保と提供
- 暑熱対策装備（空調服・冷却ベストなど）の配備
- 遮熱・断熱を含む建屋構造や環境の改善努力
企業がこの法改正に対応できなければ、労働基準監督署による是正指導の対象となるほか、万一熱中症事故が発生した場合には労災認定や企業責任の追及にもつながるおそれがあります。特に工場での作業を要する企業では、「設備環境」＋「個人対策」双方の整備が必須です。
このような背景を受け、現在、多くの工場では2025年の法改正を見据えて、空調設備の刷新や遮熱塗料の導入、作業服の見直しなど、暑熱対策の強化に取り組み始めています。
工場における熱中症のリスクと暑さの原因
製造現場における熱中症は、毎年多くの発症・労災認定が報告される深刻な問題です。特に夏季の工場内では、高温・多湿な環境が重なり、労働者の体温調節機能に過度な負担がかかります。こうした環境に長時間さらされることで、めまいやけいれん、意識障害などの症状が現れ、最悪の場合は命に関わる事態にまで至ることもあります。
熱中症の発生を招く工場内の要因として、以下のようなものが挙げられます。
熱中症リスクを高める工場内の主な要因
- 屋根・外壁からの輻射熱：特に金属屋根や断熱性の低い建物では、夏季に室温が40℃を超えることも珍しくありません。
- 高温設備の存在：溶接機、鋳造炉、乾燥装置など、熱を発する設備が周囲の気温を上昇させます。
- 換気不足：密閉性の高い建屋では熱がこもりやすく、空気が滞留して湿度が高くなります。
- 作業服や保護具の制限：安全を重視するあまり、通気性に劣る作業服を使用し、体温がこもりやすくなるケースがあります。
- WBGT値への無関心：現場のリスク評価が主観的で、数値化されていない場合、熱中症の予防措置が後手になりがちです。
作業者の健康だけでなく生産性にも影響
暑熱環境によって集中力や判断力が低下すれば、作業ミスや労災事故のリスクも高まります。また、熱中症による離脱者が出れば、人員の再配置や生産ラインの遅延も発生し、企業の運営に直接的な影響を及ぼします。
したがって、熱中症対策は単なる健康管理ではなく、経営リスクの抑制策として位置付けるべきです。2025年の法改正を目前に控え、今こそ環境面・体調管理面の両面から対策を講じる必要があります。
作業者目線での熱中症対策【個人編】
工場内の暑熱環境に対して設備面の改善が進んでも、最終的に熱中症を予防するのは現場で働く作業者自身の体調管理です。特に高温エリアでの作業や長時間の立ち仕事を伴う工程では、個人装備の工夫と補助用品の活用が、作業効率と安全性の両立に大きく貢献します。
ここでは、すぐに導入可能な「作業者目線での対策」を紹介します。
① 空調服・冷却ベストの着用
近年急速に普及しているのが空調服です。内蔵ファンで風を服内に取り込み、汗の蒸発を促進しながら体温上昇を抑制する仕組みで、冷房のない現場でも効果的です。フルハーネス対応モデルや帯電防止仕様など、用途に応じた製品を選ぶことで、安全性と快適性の両立が図れます。
一方、冷却ベストは凍結パックや保冷剤を内蔵するタイプで、即効性のある冷却効果が特徴です。空調服が使えない狭所や粉塵環境では、こちらの方が有効です。
② 作業中の水分・塩分補給の習慣化
熱中症は体温の上昇だけでなく、体内の水分・塩分バランスの乱れでも発症します。そのため、冷水・経口補水液・塩タブレットなどの準備は必須です。
「喉が渇く前に飲む」「決まったタイミングで摂る」など、ルールとして徹底することが重要です。現場によっては、タイマーやアラートを活用して飲水を促す仕組みを導入しているケースもあります。
③ 着衣と防具の見直し
夏季でも耐熱性や防塵性が求められる現場では、作業服の軽量化や吸汗速乾素材の導入がポイントです。また、通気性の良いメッシュタイプのヘルメットやインナーキャップ、冷感インナーなどの使用により、装備全体の快適性を高めることが可能です。
さらに、日除け機能のあるキャップ・ネックカバーの着用も、直射日光下での作業に有効です。
④ 教育と意識改革の徹底
装備の準備だけでなく、作業者本人の意識を高める教育も対策の一環です。初期症状の見分け方、応急処置の方法、作業前の体調申告制度などを通じて、「自分の身は自分で守る」という意識を職場全体で共有することが、熱中症ゼロの現場づくりには不可欠です。
今すぐできる工場の熱中症対策【設備・環境編】
熱中症対策を講じる上で、最も効果的なのは「環境そのものを改善すること」です。特に製造業や加工業では、屋内作業にもかかわらず気温や湿度が外気以上に高くなるケースが多く、従来の扇風機や開閉式窓だけでは十分な対策とは言えません。ここでは、工場における即効性の高い3つの設備・環境面での熱中症対策をご紹介します。
① 空調機器の増設と最適化（スポットクーラー・シーリングファン）
高温エリアにピンポイントで冷風を送るスポットクーラーは、設備投資としては比較的手軽かつ有効です。また、シーリングファンや循環ファンを組み合わせて気流をコントロールすることで、冷気を工場内に効率よく分配し、暑さによる局所的なムラを軽減できます。
特に広い工場空間では、エリアごとの温度差を可視化し、人が集まる工程に重点的に送風できる設計が重要です。
② 遮熱・断熱対策の導入（遮熱塗料・遮熱シート・遮熱フィルム）
建屋自体が熱を溜め込みやすい構造の場合、外壁・屋根への対策が極めて効果的です。代表的なのが遮熱塗料の施工です。太陽光（特に近赤外線）を反射し、屋内温度を5〜10℃下げる効果が見込まれるため、冷房効率を高めつつ、建物全体の温度上昇を抑制します。
加えて、窓や天窓には遮熱フィルムや断熱ブラインド、内部には断熱パネルの設置なども効果的です。これらの導入により、日中のピーク温度を抑え、作業者の負担を軽減します。
神奈川工場工事メンテナンス.comの「工場 暑さ対策」事例
キャスト室の熱をシャットアウト！遮熱塗料で快適な作業空間を実現
Before 電気炉、ガス炉の熱が床を通して、2階が室温30℃超えの過酷な環境に…
オーダーメイドの宝飾品を製造している貴金属メーカー様より、夏場の作業環境に関するご相談をいただきました。
同社の1階キャスト室には電気炉やガス炉が設置されており、その熱が床を介して2階に伝わることで、2階作業室の温度が異常に上昇していました。
特に午後は西日の影響もあり、エアコンを最大出力で稼働させても室温が30℃を超えることもございました。
そのため、作業者の負担が大きく、熱中症の危険もある状況だったため、早急な改善が必要でした。
加えて、工場は年間を通じて稼働しているため、生産を止めない範囲での施工が求められておりました。
After 遮熱塗料で熱を遮断することで2階の温度上昇を抑制、快適な作業環境を実現
現場調査とヒアリングを踏まえ、大掛かりな設備工事を避けつつ、効果的な断熱が実現できる方法として…
工場の熱中症対策は神奈川工場工事メンテナンス.comにお任せください！
工場内の暑さは、作業効率の低下や熱中症リスクに直結する重要な課題です。
特に炉や機械からの放熱、西日による温度上昇など、構造的な原因がある場合は、空調設備や個人の対策だけでは解決できないことも少なくありません。
「暑さで作業環境がつらい」「空調だけでは限界がある」とお悩みの方は、ぜひ当社までご相談ください。現場の状況に合わせた最適な暑さ対策をご提案いたします。
