工場で使用する特殊環境クレーンの選定・管理ポイント

工場の生産ラインや倉庫で活躍する天井クレーンですが、実はその使われる環境に応じて、全く異なる仕様や機能が求められます。特に、クリーンルームや防爆エリアといった「特殊環境」では、一般的なクレーンを使用してしまうと、製品の品質不良や、最悪の場合は大規模な事故に繋がる危険性があります。今回は、安全な作業環境と高い製品品質を維持するために不可欠な特殊環境クレーンの選定・管理における重要なポイントを環境別に解説します。

①クリーンルーム環境(半導体・電子部品・食品・医薬品業界など)

環境の課題

クリーンルームで最も嫌われるのは「発塵」、つまりホコリや微細な粒子の発生です。クレーン本体の塗装の剥がれ、駆動部の摩耗粉、潤滑油の飛散などが、製品に付着すれば重大な品質不良を引き起こします。

求められるクレーン仕様

低発塵塗装・ステンレス仕様: 塗膜が剥がれにくい特殊な塗装や発塵のないステンレスを本体や部品に使用します。

グリス漏れ対策: 走行・横行モーターや減速機を密閉構造にし、潤滑油が外部に漏れない設計が求められます。

クリーン対応部品: 摩耗粉の出にくいナイロンやウレタン製の車輪、ホコリが溜まりにくいフラットな構造などを採用します。

②防爆・絶縁環境(化学プラント・塗装工場・電池製造・発電所など)

環境の課題

可燃性のガスや蒸気、粉塵が存在するエリアでは、クレーンの電気部品が発する微細な火花や、車輪とレールの摩擦熱が着火源となり、大規模な火災・爆発事故を引き起こすリスクが常に存在します。

求められるクレーン仕様

防爆仕様の電気品: モーター、スイッチ、制御盤など、火花が発生する可能性のある全ての電気部品を密閉された防爆構造のものに置き換える必要があります。

火花対策: 車輪やワイヤーロープなどに、摩擦や衝突で火花が出にくい非鉄金属(ベリリウム銅合金など)を使用します。

③製紙・自動車部品・食品業界など、特殊な搬送が求められる環境

環境の課題

長尺物や重量物、精密な位置決めが求められるワークなど搬送物や工程の特性に合わせた特殊な機能が必要となります。

求められるクレーン仕様

高速巻上・インバータ制御: 製紙工場でのロール紙交換など、作業時間を短縮したい工程では、通常の数倍の速度で昇降できる高速ホイストが有効です。また、インバータ制御により、発進・停止を滑らかにし、荷振れを抑えた精密な位置決めを実現します。

同期運転(2台吊り): 自動車のドアやシャシー、大型の家具など、長尺物を水平に保ったまま吊り上げる必要がある場合、2台のホイストを同調させて動かす同期運転機能が求められます。

すべての環境に共通する「メンテナンス」の重要性

どのような特殊環境クレーンであっても、その性能を維持し、安全を確保するためには、法令で定められた定期的なメンテナンスと点検が不可欠です。

重要なメンテナンス項目

特に、医薬品工場や食品工場などで使用されるクレーンでは、ワイヤーロープの摩耗による油や金属粉の飛散を防ぐため、定期的なワイヤーロープ取替工事が極めて重要です。クレーン等安全規則に基づく年次点検はもちろん、日々の点検・管理が、安全と品質の生命線となります。

特殊環境クレーンの選定は、企業の生産性と安全性を左右する重要な投資です。自社の作業環境にどのようなリスクが潜んでいるかを正しく評価し、最適な仕様のクレーンを選定・管理することが、安定した事業継続の鍵となります。

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